IGR沿線コラム その1 〜 啄木の愛した渋民と「ふるさとの山」自転車さんぽ

2016年9月6日

  岩手出身の文学者といえば、宮沢賢治と石川啄木が知られている。
  賢治ゆかりの地・花巻は、石川啄木記念館、童話館、イーハトーブ館に、イギリス海岸、羅須地人協会等多くの“賢治名所”に、山猫軒、やぶ屋、林風社と食事や土産までも賢治尽くしで揃う。ガイドブックで特集が組まれることも多いく、たっぷり1〜2日楽しめる。
  一方で啄木といえば、渋民の「石川啄木記念館」がガイドブックにひっそりと紹介されている程度なのが残念。啄木の人気は、全国に134も散在すると言われる歌碑の多さからも明らかで、多くの歌が故郷・渋民や周辺地域のことを詠んでいる。啄木の聖地・渋民を、もっと知ってもらいたい。

  さて、渋民の「啄木名所」は、概ねIGR渋民駅とIGR好摩駅の間にまとまっている。歩いても回れるが、石川啄木記念館まで渋民駅から30分歩くのは、躊躇する向きもあろう。ここは自転車で回るのが最もお勧めである。車でもいいのだが、せっかく「ふるさとの山」や「北上川」など味わうのなら、360度見わたせて空気を感じられる自転車の方が、より体感的に楽しめる。というわけで今回は、IGRいわて銀河鉄道の駅を拠点に、「啄木の里・渋民」を探訪してみる。
  まずは、IGR渋民駅またはIGR好摩駅で、レンタサイクルを借りる。レンタサイクルはこの2駅相互で乗り捨てることができる(300円)ので、片道コースにもできる。石川啄木記念館の森館長によると、両駅とも記念館への道筋や、レンタサイクル相互乗り捨ての案内表示が分かりにくいという。なるほどこういうちょっとしたことでも、名所の認知度は大いに違ってくる。
  ちなみに啄木のいた時期に渋民駅はまだなく、好摩駅を利用していたということなので、啄木が乗り降りした駅の風情を、IGR好摩駅でぜひ味わって欲しい。

  石川啄木記念館へは、IGR渋民駅から約2.5km・自転車で10分ほど。IGR好摩駅からならば4.2km・20分ほど。ここには、啄木の母校であり代用教員として奉職した「渋民尋常小学校」と、啄木が間借りしていた「斉藤家」が移築されている。

  「渋民尋常小学校」は、入ったとたん「明治」という時代を感じる。自然光のみの灯と、使い込みすり減った床や柱。手が届きそうな天井に、小さないす・机。現代建築に慣れた私たちにとって、懐かしいぬくもりを感じることができる木造校舎である。啄木や先生、生徒たちは、ここで本を読み、遊び、歌を歌っていた。その光景は、小学校前にある啄木と生徒が楽しげに語らう銅像のようだったのだろう。

  石川啄木記念館からほど近くに「渋民公園」がある。ここは「啄木の駅」と称する車の休憩所でもあり、食堂・売店もある。岩手山を眺望する丘になっており、歌碑「やはらかに柳あをめる……」が建つ。この近隣エリアには啄木ゆかりの斉藤家や小学校、宝徳寺などに歌碑が建っており、巡りながら各々の場所ゆかりの歌を鑑賞できる。
  さて、比較的新しいお勧めの歌鑑賞スポットが一つある。一度渋民駅方面へ戻り、駅近くの踏切を北東方向に渡った先、石川啄木記念館からの距離は3.7km・自転車15分くらいの地点に建つ、小さな歌碑である。遮るものなく真っ直ぐ延びる田園の道の傍らにぽつんと建つその歌碑のバックには、どんと岩手山が座す。空の広さと一面緑の広がりが、この歌碑「ふるさとの山に向ひて言ふことなし……」そうそう、言うことないよね! とそのまま同意してしまう。
  半日もあれば、概ね回れるこのエリア。起伏も少なく、自転車のフットワークを生かして楽しめる。車はどうしてもスポットを点で繋ぐ旅になりがちだが、啄木も吸っていた空気を感じながらの自転車歌巡りは、文学好きもそうでもない向きも、リフレッシュできる素敵なさんぽとなる。

(荒木 佳代)